複数ではアマゾネス(ΑΜΑΖΟΝΕΣ, Amazones)。ギリシア神話に登場する,女性のみで構成され,勇猛で戦いを好んだといわれる伝説的な部族で,小アジア(現在のトルコの辺り)にテミスキュラという都市をはじめとして多くの町を築き,女王がこれを統治していた。男が彼女たちの社会の成員となることは決して許されなかった。ただ,アマゾネスの血筋を保存するという目的のためには一時的に男を迎えいれて子種を受けた。そうして生まれた子供からは,やはり女子のみが選ばれ,他方,男子は父親のもとに送り返されるか,その場で命を絶たれるかであった。
●「アマゾン」の語源
アマゾネスは片胸を切除していたといわれる。狩りや戦闘に際して,弓を引く動きの妨げになるからというのがその理由である。
これは,アマゾンという言葉が「乳なし」といった意味を持っているのだという解釈,乳房を指すマゾス(ΜΑΖΟΣ)に,否定(…のない)の意味を添えるア(Α)という接頭辞がついてできたものから由来したのだという解釈から生まれた伝説のようだ。しかし,接頭辞アを辞書で引いてみると,他にも否定の意味どころか連結(…と共に)や強調(とても…)のような意味に使われたり,また単に語調を調えるために音を添えてあるだけで意味を持たない場合の例なども掲げられているから,アマゾンが乳房を切り取ったと考えられていた根拠の,「乳なし」という語源は決して確かなものではないように思える。それに,壷に描かれた古代の陶画には,細かい部分はよく見えないが,切り取った乳房の痕を露出したアマゾンが描かれているような作品はあまり見当たらない。それよりも,アマゾンという名前はもっと明快に女性を表しているのではないだろうか。
●英雄伝説
アマゾネスは,英雄の敵として伝説に登場する。
英雄ヘラクレスがなした「十二の功業」のうち,第9番目の任務は,アマゾンの女王ヒッポリュテの帯を取ってくるというものだった。
ヘラクレスはその命を受けると,ギリシアの南部,ペロポネソス半島にあるミケーネから,小アジアのテミスキュラへ向かって船を出した。やがてアマゾネスの国に着くと女王が親しげに彼の前に現れて,用向きを尋ねると,惜しむわけでもなく帯を与えることをうべなった。これを見ると,男児が生まれてきたら殺すともいうほど自分たちの社会構造に男が含まれるのを嫌ったアマゾネスにも,来客程度の男なら迎え入れてくれる度量はあるようだ。
だが,夫ゼウスと人間の女性との間に生まれた不倫の息子のヘラクレスを,彼が誕生する以前から深く妬み憎んでいたのは,ゼウスの正妻である女神ヘラだった。
このときヘラは,アマゾネスたちがヘラクレスを葬ることを期待していたのだろうか,それとも,半分は神であるヘラクレスには,テミスキュラのアマゾネスを糾合しても勝てる見込みのないことをよく理解していながら,自分の妬みの感情に任せてアマゾネスを犠牲にしたのだろうか。ヘラは一人のアマゾンに姿を変えると,他のアマゾネスに,来航したギリシア人が女王をさらっていこうと画策している,ということを誣いてまわったのだ。アマゾネスはこれを聞くと慌てて武器を取り,おのおの戦いの準備を調えると,大挙して港へ押しかけた。
ヘラクレスは早計にも,これはアマゾネスがしかけた罠だったのだと見なすや,ヒッポリュテと自分を取り囲んでいたアマゾネスとをすべて打ち破ってしまい,帯を持って帰路に就いた。
●アマゾン川
南アメリカ大陸を流れ,ナイル川に次いで世界第2の長さ(約6,300km)を誇るアマゾン川。この名は,昔,この川の流域に住んでいた先住民の女たちが男たちとともに進出してきたスペイン人に勇ましく抵抗したことから,アマゾンの名をつけられたとも,先住民の言葉で「ボートを壊すもの」をいうアマソーナによるともいわれている。
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