ナイジェリアのヨルバ神話の中で、最も注目に値する神。ヨルバの神々は特定の祭祀集団によって祭られ、他の神々を崇拝する人々からは信仰を受けないのが普通であるが、エシュは例外的に全ての人々から信仰を受けている。本来は人間の崇拝と犠牲の正しさを検討して、神々と人間の行為について主神オロルンに報告するという、重要な役割を担っているからである。しかし、オロルンの長子、あるいは末子とまでいわれ、ヨルバ神話のパンテオンの第二位にあるはずのエシュは、極端な両義性を持って知られている。
エシュは神々の父の如く威厳に満ち溢れる姿をしており、一方で神々の中でもっとも幼い姿をしているともいわれる。太い杖を持つ偉丈夫であり、スープに跳びかかって塩をかけねばならないほどの小人でもある。輝くばかりの美貌の持ち主であり、顔をそむけるばかりの醜男である。
この神は、しばしば行動にも一貫性を欠いている。前述の通り、強大な力を持つこの神は、人間と神々を繋ぐ信仰を司る神で、人間界においては家庭や交易を見守る、いわば秩序の守護者としての一面を持っている。しかしながら天界一の悪戯者として、混乱と不和の種をばら撒く逸話も多く残す。
有名な逸話に、二人の妻を持つ男を惑わせるエシュの話がある。エシュは、帽子売りに化けて、二人の妻の前に代わる代わる現れ、高価な帽子を売りつけた。やがて、嫉妬と競争心に操られた妻達は家庭をめちゃめちゃにしてしまう。
また、別の逸話では仲の良い二人の男の前に代わる代わる違った姿で現れ、意見の食い違う二人を取っ組み合いの喧嘩にさせたこともあった。事の次第を国王に知られたエシュは町に火を付けて大騒ぎを起こしてしまった。
さらに天界にあっては太陽神と月神をかどわかし、互いに入れかえらせることによって日食と月食を生み出すなど、悪行も極まり、ついに長老オバタラ神と主神オロルンは天然痘の神ソポナを遣わし、エシュを懲らしめようとした。エシュはソポナに散々に打ち負かされ逃げ去るが、その途中で川に飛び込み、川から天然痘を広めてしまうのである。
しかし一方で、人間が神に供物を捧げるのを忘れて、神々が飢えに苦しんだ時、エシュは一匹の猿から椰子の実を世界中から集めるように勧められ、世界中を旅して椰子と、その旅で得た人間の信仰に必要な占いと供儀の知識を神々と人間に持ちかえったりしている。この様にエシュは単なる偶然の導入者、秩序の破壊者ではなく、既成の秩序に無秩序を招き入れ、その秩序の弱点を暴き、より高度な秩序を構築する役割を担っていると言えなくもない。
ただし、エシュに対するヨルバ族の見方には複雑なものがあり、この神格が大西洋を渡ってブラジルに伝わった後、19世紀のキリスト教ではエシュこそはキリスト教でいう悪魔だとされた。ヨルバ人の牧師であり、学者でもあるサミュエル・ジョンソンは著書「ヨルバ史」の中で、「エシュ、又はエレグバラ…サタン、邪悪なる者、諸悪の根源なり」と述べている。
エシュを典型とするトリックスターの存在はその他のアフリカ神話にも頻繁に見られる。特にギニアのフォン族の神レグパ(ハイチではレクバ)とは同一の存在ともいわれ、エシュ=エレグバとも称される。
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