破壊と殺戮の女神。シヴァの神妃(デーヴィー)であり、ドゥルガーから生まれたといわれている。その容姿は、ドゥルガーよりも凄惨で、体中が黒色で、髪を振り乱し長い舌を突き出した恐ろしい形相である。右手には血が滴る剣、第2の右手には三叉戟を持ち、左手には切り落とした生首、第2の左手は生首から流れ落ちる血を受け止める骸骨を持っている。首には、生首を繋いだネックレス。裸体を覆う腰巻きは、切り取った手足であった。
カーリーとは、「時間」と「黒い」の二つの意味を持つカーラ(kala)の女性形であり、「時の女神」「黒色の女神」という意味を持つ。
彼女は、出産のエピソードから血に染まっている。『デーヴィーマーハートミヤ(女神の偉大であること)』によれば、ドゥルガーがマヒシャを退治した後、シュムバとニシュムバというアスラが神々の前に立ちはだかった。苦境に陥った神々は、またもドゥルガーにその退治を依頼する。ドゥルガーが戦いに赴くと、現れたのは先兵のチャンダとムンダであった。それまで微笑んでいた彼女の顔が、二人の顔を見た瞬間、怒りで黒く染まってしまう。その時、激高する彼女の額が突然割れ、中からカーリーが出現したのである。彼女は、身の毛もよだつような咆哮とも聞こえる高笑いをあげ、次の瞬間、周囲のアスラ全てを喰い殺した。
次に彼女の目の前に現れたのは、ラクタビージャというアスラである。
ラクタビージャは、その血が地上に落ちると、クローンの様に自分と同じアスラが生まれてくるという能力を持っていた。
カーリーが、ラクタビージャを切れば切るほどその数は増えていき、やがて戦場はラクタビージャで埋め尽くされてしまった。そこでカーリーは戦術を変え、口を開くとアスラ達を飲み込み始めた。全てのアスラは飲み込まれ、ラクタビージャは全身の血を吸われて絶命した。そして、カーリーはシュムバとニシュムバを殺したのである。
血に酔いしれたカーリーは、勝利のダンスを踊り始めた。しかし、そのステップがあまりに激しく大地を揺らすので、世界が壊れそうになってしまった。シヴァが、それを止めようと声をかけるが、彼女の耳にその声は届かない。しかたないので、シヴァは彼女の足下に横たわって、自分の体でその衝撃を受け止めた。これが、よく宗教画で描かれているテーマの一つである。やっと気付いた彼女は踊りを止め、申し訳なさそうに、舌をぺろりと出したのである。
かつてインドには「パンシガル(旅人殺戮教徒)」という、カーリーを崇拝する宗教があった。凄惨な生け贄の儀式を有するその宗教は、イギリスがインドを植民地化するまで続いていたという。
現在でもカーリーは、ベンガル州で圧倒的な人気を得て崇拝されている。有名なカルカッタのカーリー寺院では、祭儀の度におびただしい生
け贄の血が流されている。もっとも、その生け贄は動物であるのだが。
|