女神アルテミスは,自分の純潔に対してはさらに過敏な神経を有していた。
アリスタイオスとアウトノエの息子アクタイオンは,上半身は人間で下半身が馬の相貌をしているケンタウロスのケイロンによって教育を受け,有能な狩人となった。ある暑い夏の日,彼は仲間と猟犬を具して,山に分け入って狩りをしていた。正午ごろになると,彼らは今日の狩りはこれまでにしようと話し合って別れた。アクタイオンは独り,渇きを癒すために水を探して森の奥へ分け入っていくと,辺りは糸杉が生えた谷になっていた。奥には自然にできた洞穴があり,いっぱいに澄んだ水を湛えた泉があるのを彼は見た。
アクタイオンはすぐに泉に近寄るが,そこは,女神アルテミスが疲れた体を休めに来る場所だった。そのときも,女神はちょうどニンフたちを連れてそこに来ていて,狩りの槍と箙,弓矢,上着に靴をお供のニンフたちに預け,水際に立って髪をくしけずらせていた。そのとき,洞穴の入り口の辺りにさまよってきた男の姿が見え,アクタイオンが覗き込んでくるとニンフたちはこの神域への闖入者に叫び声をあげ裸身のアルテミスをかばおうと寄り集まる。しかし女神の背丈はニンフたちより頭ひとつ以上高く,顔と肩はあらわになったままだった。アルテミスは稲妻が出るかと思うばかりの目で,無礼にも我を忘れて女神の姿に見入っているアクタイオンをねめつけ,泉の水を汲むと,思い切り彼の頭上から投げ放った。
すると彼の頭には2本の角が生え,耳はとがって毛が生え,手はひづめのついた獣の前足に変じ,肌は全身毛に覆われてまだら模様,アクタイオンは鹿の姿に変えられてしまっていた。姿ばかりではなかった。ケイロンのもとで狩りを覚えて山野を走り回っていた彼も,狩られる側の今は葉擦れの音も足音も恐れ脅えていなくてはならなくなってしまったのだ。泉を逃げ出すと,おそるおそる川面に自分の姿を映してみた。川の見せていた影は,やはり木の枝のような角をつけてこちらを見返していたのだった。
落胆している彼のもとに,連れてきていた猟犬が駆け寄ってくる。だが,犬はアクタイオンに駆け寄ってきたのではなく,獲物の鹿を目指して向かってきたのだ。彼は逃げ回ったが,最期は自分の犬たちに引き裂かれるという哀れなものだった。
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