別に、兼家系統の物語では甲賀三郎兼家(かねいえ)と呼び、諏方系統の物語では甲賀三郎諏方(諏方=諏訪:すわ、または頼方:よりかた)とされる。
『三人兄弟』の話をとる末子成功譚の物語の主人公で、山神の祟りのために蛇体となる。その後、諏訪の神になったともいう。
各地の諏訪社との関わりが深く、日本神話中のタケミナカタが変化したものが甲賀三郎だともいわれる。
<甲賀三郎>
その昔、近江(滋賀)の甲賀の里に鹿などを狩猟して生計を立てている甲賀太郎、次郎、三郎という兄弟があった。
ある日、兄弟が若狭(若狭湾沿岸)の国の高懸山(未確認)で猟をしていると、山の神が変じた大蛇と出会う。太郎と次郎は逃げてしまうが、三郎は逃げることなく大蛇を殺す。
2人の兄はこの所業が狩りの妨げになることを怖れて、三郎を深い穴(人穴)へ突き落した。
三郎が落とされた穴は、地底の異郷、維縵国(いまんこく、ゆいまんこく)に繋がっていた。三郎はその地下の隠れ里を出口を求めてさまよい歩く。
ようやく信濃(長野)の国より地上に出ることができた三郎だが、その身体は蛇の姿に変わってしまっていた。
故郷へ戻り、妻子が三郎の供養のために建てた観音堂の縁の下に籠もって、念仏を唱えると、身体は元に戻る。
兄2人は三郎の復讐を怖れて自害し、三郎は所領を安堵され、その後諏訪の神になったという。
他に、地底にいる妻を捜すもの、妻が龍になり諏訪湖の底で待っており、三郎も龍になり諏訪湖に入るもの、などの変種がある。
維縵国は、天地の果てにあるゆったりとした国の意味で、中国起源の伝説。ただし、出雲系神話の地下の国、根の国(黄泉)が融合している。
『古事記』や『日本書紀』を見る限り、根の国(黄泉)は出雲にあるように見受けられるが、熊野信仰においては、紀の国(紀伊半島)にも黄泉の国への入り口があるとされている。
『神道集』では、人穴は蓼科山にあったとされ、穴から出た甲賀三郎は諏訪大社の諏訪大明神として上社に鎮座し、その妻春日姫は下社に座したと書かれている。
また『諏訪大明神御本地縁起』では「なぜ山野の獣を狩り、生贄にするのか」と問われた三郎が普賢菩薩として、「業尽有生 雖故不生 故宿人中 同証仏果(いたずらに生死の流転を繰り返す動物を憐れんで、来世を助けるためにしばらく身のうちに食べて宿し、仏果をあたえるのだ)」と答える。
これは諏訪大社の御頭祭(おんとうさい)と、社が配布していた四つ足の獣を狩り食しても殺生の罪を問わないという、鹿食免(かじきめん)と直接に結びついており、狩猟の民の間の、磐次・磐三郎や小野猿丸太夫を主人公とする神戦の伝説とも関連があると思われる。
<ミシャグジ様>
三郎が殺した山の神の変化した大蛇は、諏訪の土着神ミシャグジだともいわれている。加えて『神道集』の記述から、三郎はミシャグジより後に諏訪に入ったタケミナカタと同一視されている。
また中世の諏訪大社は別名諏訪八幡と呼ばれる、武神的な八幡信仰と仏教色の強い神社だった。
その頃の物語の構成をみると、まず大蛇(ミシャグジ)を三郎(タケミナカタ)が殺し、祟りに苦しんだ三郎を最終的に念仏が救うという、仏教説話となっている。
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