ヴィシュヌ第8のアヴァターラ(化身)である。その名は「黒い神」の意味で、数ある化身の中で最もも重要であり人気のある神。ヴィシュヌの化身としではなく、単体の神としても崇拝されている。
前述したとおり、クリシュナはインドで最も有名で親しまれている神である。その様々のエピソードは、長く語り継がれ、劇画されたり最近でも映画化される程で、知らない者はいないと言っても良いだろう。インド人の名前に、クリシュナやその別名が多いのもそれを示している。ヴィシュヌが最高神までに登り詰めたのも、クリシュナをアヴァターラとして取り込んだからであると言っても過言ではない。
クリシュナの起源は、古くは『リグ・ヴェーダ』や『チャーンドーギヤ・ウパニシャッド』に見られるが、現在のクリシュナとの関係は明らかではない。 またクリシュナは、紀元前8世紀以前に実在したヤーダヴァ族の指導者であったと考えられている。ダーサという、アーリア人に征服された民族という記述も見られ、非アーリア人だった可能性も高い。クリシュナはその民族の中で、太陽神であるバガヴァッドを崇拝する新宗教を広めた。クリシュナの死後、彼はバガヴァッドと同一視され、クリシュナ=バガヴァッドと呼ばれるようになる。この宗教の勢力が大きくなるにつれ、バラモン教の司祭達はヴェーダ以来の太陽神であるヴィシュヌと同一視する事によって、自分たちの宗教体系に組み入れたのである。この様な複雑な過程を経て、ヤーダヴァ族に発したクリシュナはヴィシュヌの化身となったのである。
ヒンドゥー教の第一聖典である『バガヴァッド・ギーター』は、元々クリシュナ=ヴィシュヌをバガヴァッドとして崇拝するバーガヴァタ派の聖典として編まれた物が、『マハーバーラタ』の中に組み入れられたのだろう。
ヴィシュヌの活躍は『マハーバーラタ』の中の、クリシュナ伝『ハリヴァンシャ』や、プラーナ文献である『バーガヴァタ・プラーナ』において良く知られている。 クリシュナは生まれ出た瞬間から、神童であった。その後も数々の勇猛なエピソードを残すが、中でも有名なのがヤムナー河に住むカーリヤの退治である。また彼は、その美貌から全ての牛飼い女達の誘惑者でもあった。他にも、宿敵であるカンサ王を倒すなど、その活躍は限りがない。その後、彼はヴィダルバ国のルクミニー姫を妃とし、兄弟であるバララーマと共に数々の戦争を駆け抜けて行くが、その最後は意外にもあっけない。ある時、森の中で瞑想していたクリシュナを鹿と間違えた猟師によって、唯一の弱点であるアキレス腱を射られて死亡してしまうのだ。彼の住んでいた街は海に飲み込まれ、クリシュナはヴィシュヌの姿に戻り、天へと昇って行った。
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