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物の怪 ( モノノケ ) 英名: mononoke

 地 域: 日本
 テーマ: 一般
 種 別: 用語

 「もののけ姫」などで有名になった「もののけ」の語であるが、「もののけ」とは、もともと怨みを持った霊や怨霊によって引き起こされる病のことであった。『枕草子』には「胸のけ 足のけ もののけ」といった例が在る。この事からも病の一種であった事が伺える。

 「もののけ」の語に対する語で『古事記』崇神天皇代に「神のけ」の語が見られる。『栄花物語』には「光栄・吉平などめして、物問はせ給ふ。御物のけや、又畏き神のけや、人の呪詛など様々に申せば、」とある。ここでの「神のけ」は「物のけ」と同列である。

 さて、「物のけ」の「物」とはどのような意味があったのだろうか。「物」は朝廷で鎮魂を司っていた氏族である「物部」氏の「もの」であり、大神神社に祭られる大物主神の「物」と同じで、「精霊」「霊威」「霊格」を意味する。「延喜祝詞式竜田風神祭」には「百の物知り人どもの卜事に出む神の御心は」とある。ここでの「物知り人」とは、精霊などの異界の物の意志を理解し、伝える人の事であり、沖縄などの巫覡のことである。

 この「もの」はしだいに異なった用例を表すようになる。『万葉集』には「鬼病」とかいて「もののけ」と読ませたり、意味に関係なく「もの」の音を表す場合に「鬼」を用いる場合が多い。例としては「因西鬼乎」ト書いて「よりにしものを」と読ませている。

 時代が下るにつれ、「もの」は霊魂一般から「化け物」や「妖怪」を限定して指すものとなる。『今昔物語』には「今は昔 物の気病するところありけり」というように「もののけ」」がもとの病で無く「妖怪」などの類いとして固定されているためこのような用例があらわれる。そうでなくては「け」と「病」と同義語を重ねる必要性の説明が付かない。

 「もののけ」は外から侵入し個人の肉体や精神を奪うものだと考えられていた。この侵入された状態が「もののけ」という病である。これに対する手段として、修行を重ねる事によって異界との交渉能力を持った験者つまり、陰陽師や僧などに頼る事になる。『栄花物語』には「御みゃうじどもは、晴明 ・光栄などはいと神さびたりし者どもにて、験ことなりし人々なり」とある。「もののけ」とはこのような「神さびたる人」を介して交渉を行うのである。おなじく『栄花物語』には「例の験ある心誉僧都・叡效律師さばかりまめに加持し奉るに、さらにこの御物のけまこと覚ゆる事なし。験見えず。かくて一七日過ぎぬ。今七日延べさせ給へるに、こたびぞいと恐ろしげなる声したるものののけ出に来たる。これぞ日頃悩し奉りつる物のけなめりとて、鳴りかかりて加持しののしりて、移したる気はひ、いとうたてあり。」とあり、験者が法力や験力によって圧力をかける事によって、憑いている「もの」は第三者や憑いている人の口を借りて自己を表すのである。『源氏物語』「葵」にも「心ぐるしう思し嘆きて、御修法や何やと、わが御方にて多く行はせ給ふ。物の怪、生霊などいふもの、多く出で来て、さまざまの名のりする中に、人に更に移らず、ただ、みずからの御身に、つと添ひたるさまにて、殊におどろおどろしう、わづらはし聞ゆる事もなけれど、また、片時離るる折もなきもの、一つあり。」と、人の口を借りて自分の意志を表示する例が見られる。

 人に憑いた霊は、現世に対する不満(つまりマイナス)であるから、不満を官職を与えるなどして充足させてやれば(プラス)零に戻るのである。霊が充足すれば「もののけ」即ち霊的病は解消されるのである。これが個人では無く社会的に影響をおよぼすようになったものが御霊とよばれる。

 「もののけ」は個人に憑いた霊が引き起こした「病」であった。それがしだいに「妖怪」などを限定して指すように変化していったのである。

項目情報

 作成者:春桜庵主人
 作成日:
 更新日:2005-03-16 00:00:00

参考文献
 ・『日本文学と民俗』 桜楓社  池田弥三郎
 ・『憑霊信仰論』  講談社   小松和彦
 ・『鬼の研究』  筑摩書房   馬場あき子
 ・『折口信夫全集』 中央公論社

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