もとは、浦島子(うらのしまこ)。
7世紀末の文人、伊預部の馬養の連(うまかいのむらじ)の創作ではないかと言われるが、完全なオリジナルではないことは、蓬莱山(竜宮城)等の記述が見られることからも推測される。
最古の記録は『日本書紀』の雄略紀にあり、また『丹後国風土記』逸文には、貴人である水江の浦嶋子と神女である亀比売(かめひめ)の物語として以下のように記されている。
嶋子が海に船を出し釣りをしていると五色の亀が釣れ、その亀が女(亀姫)に変身し、嶋子を蓬莱山(ほうらいさん:常世の国)へと連れていく。
嶋子はそこで亀姫と夫婦となり3年間暮らすが、ある日故郷に帰りたいと姫に告げる。姫は玉匣(たまくしげ)を嶋子に授け「私の元へ戻りたいと思うなら、この箱を開けてはいけない」と言い含めて送り出す。
嶋子が故郷に帰ると、そこでは300年が経ってしまっており、途方に暮れた嶋子は約束を忘れ玉匣を開けてしまう。すると嶋子の若い肉体は風雲と共に飛び去ってしまい、嶋子は涙にむせびながら徘徊した。
匣(くしげ)は櫛などの化粧道具を入れる箱で、櫛笥とも書かれ、美しく飾られていたところから玉匣と呼ばれており、後に玉手箱に変わる。おなじように風雲は煙に変わる。
平安の時代、化粧道具の箱を渡すということは、「私はあなたのためにしか、化粧をしません」という心の表現で、いわば女の誓い。多くの歌に同じような表現も見られる。
つまりこの場合、「私がこれだけあなたを想っているのだから、あなたも私を忘れずに必ず戻ってきてください」という意味になる。
他の形の物語では、嶋子が必ず帰ると約束をするものもあり、亀姫が開けないでくれと言った玉匣を開くか開かないかは、約束を破るか破らないかということと、重なっている。
ゆえに箱を開けた嶋子は夫婦の約束を破ったこととなり、その報いを受ける。また、亀姫以外が化粧箱を開ける場合は、他の女性の存在が見られるはずで、その意味もあるのかもしれない。
また亀姫が玉匣に込めた想いを、嶋子は正確に理解していなかったのではないかと思われ、風流を解さない人間が恋愛に失敗するという風刺を含んでいるのかもしれない。
玉匣を開け老人となった嶋子は後に地仙になったとされ、解釈によっては陸亀になってしまったように取れなくもない。
なお『万葉集』では、嶋子は老いた後死んでしまっている。
丹後の国(現在の京都府北部)の伝説として有名で、当地には宇良神社や網野神社などがある。ただし、他の土地にも似た伝承が残るため、丹後に限定できるわけではない。
室町から江戸時代に成立した『御伽草子』で、浦島太郎と竜宮の姫の形で広まり、その後明治時代になり現在の昔話の形に固まった。
蓬莱山また蓬莱島は不老不死の妙薬があるといわれた神山で、中国起源の伝説。海の彼方にあるとされており、そこを浦島伝説は継いでいる。また、巨大な海亀の上に蓬莱山を描く絵なども存在する。
時間の流れが違うという概念は、日本では他に類を見ないが、不老(不死)の観点から、除福伝説、竹取物語との関連が指摘されている。
また『古事記』や『日本書紀』に書かれる海幸山幸の物語において、山幸が海神の宮殿に住む期間も3年となっている。
他に中国の『捜神後記』にある、『鶯浄土』の原型と考えられる話と、同じ源流を持つ可能性がある。
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