|
 |
カナアンの神話における最高神「イル」。
イスラエルでは「エール」または複数形で「エローヒーム」と呼ばれ、「ヤハウェ」の名を得て部族神となり、唯一神として崇拝されることになる。
しかし、「創造神」
・「永遠の存在」
・「山に宮居する」
・「雄牛を象徴とする」
等の性質は受け継がれた。
また、「エール」の名に因んで、ミカエル等の多くの天使が命名されている。
尚、同じ「エール」でありながら、ヤハウェとは区別されるようになった異邦の神もいた。
カナアンの神話においては、バアルと共に審判者として神々の法廷に君臨する。妻はアーシラトである。彼女はまた、「イル」の女性形で「エラト」とも呼ばれる。一方、子についての神統は錯綜している。シャハル(曙)とシャリム(宵)、「王子」ヤムと「愛し子」モート、またアナト>も「娘」として挙げられる。また、アーシラトの息子であるヤダ・ヤルハンとアシュタルも、イルの息子であると理解するのが順当であろう。そして、問題はあるがアナトの兄弟である以上、バアルもまた子と云うことになる。
また、ケレト王も「子」と云うことになっている。
イルは最高神ながらその影は薄い。すっかり年老いて髭も灰色であり、既に世代交代が必要なところまできている。それが証拠に、彼の威令は行き渡らない。
彼は後継者を選ぶが、それは最高権力を共に行使しているバアルではなく、竜神ヤムであった。アシュタルはこの裁定に不満を持つ。一方イルは、バアルがヤムの奴隷であることを宣言した上、職工神コシャル・ハシスに命じてヤムの神殿を建てさせようとする。しかし、コシャル・ハシスはその命令に背いたどころか、バアルに武器を与えて闘争心を焚き付けた。バアルは激しい闘争を経てヤムを降した。凶暴な女神アナトがバアルに肩入れしていることもあり、イルはバアルの王権を認めざるを得なかった。
ところがそれも束の間、バアルに最強の挑戦者が現れる。死神モートである。バアルはモートの軍門に下って死んでしまう。イルはバアルの死を痛烈に悼むが、為す術を知らない。バアルの死が地上の不毛をもたらし、イルの畑にも実害が及ぶ。アーシラトは残る息子を推して王権を継がせようとするが、イルはその選を退ける。そして遂にアナトが決起してモートを八つ裂きにし、バアルを復活させたのであった。
イルとバアルの間の緊張関係は、事情は異なるもののエールとバアルの間にも引き継がれる。
但し、エールとバアルの間では習合も進み、「嵐の神」
・「レヴィアタン殺し」
等の性格が共有された。
一方、イルの妻アーシラトはエールに疎遠にされた。
フェニキアの伝承によれば、エールの妻アシェルト(=アーシラト)は嵐の神(バアルか?)を不倫に誘うが、断られた上にこの不義密通の企てを夫に密告されてしまう。夫のエールはこれを聞くと、事もあろうに嵐の神に対して妻と同衾した上で辱めるように勧める。嵐の神はその通りに行動してアシェルトを怒らせたのであった。
イスラエルにおいては、アシェラ(=アーシラト)の存在自体が許されないものとなったのであった。
|
作成者:水月 作成日:
更新日:2005-03-31 00:00:00
|
『聖書』
『Ancient Near Eastern Texts Relating to the Old Testament』James Bennett Pritchard編(Princeton University Press)
『古代オリエント集』杉勇等訳(『筑摩世界文学大系』第1巻)
『ウガリトの神話バアルの物語音写資料からの翻訳と解説並びに旧約聖書への影響とその歴史的背景』谷川政美(新風舎)
『カナン神話とヘブライ叙事詩』F・M・クロス
|
|