ローマの女神。暖炉や竃の火を司る家庭の守護神であり、さらに国家の守護神でもあった。ローマでは主神のユピテルやユノーに匹敵する偉大な女神として尊崇された。ヴェスタ(Vesta)という名の原義についてははっきりしない。ギリシャの同じく竃の火の女神ヘスティアとは同一視されている。
ヴェスタの象徴である聖なる火(これはローマ人の祖アーエネイスが落城したトロイより持ち帰った火であるとされた)はパラディオンと呼ばれる聖所に燈され、6人の巫女によって守られた。この巫女たちは「ヴェスタの乙女」と呼ばれ、国家ローマの花嫁として純潔を守ることが義務づけられ(この習慣は後にキリスト教の修道女に受け継がれている)、これを破った場合は共犯者共々生き埋めにされる(一説には窓も無い狭い部屋に一生閉じ込められる)のが習わしであった。
ヴェスタはローマ最古の女神であり、元来はラテン人の母祖神たる太女神であった。その名残はいくつかの宗教儀式にみられる。古代には有力神であったヤヌスとは何らかの関係があったふしがある。ラレースやペナーテスといったローマの祖霊神もヴェスタに従属する存在であった。ただしこれは竃の近くに死者を埋葬するという太古の風習に基づくともされる。ヴェスタの巫女は元々は聖娼であった疑いがある。あるいは託宣神でもあったヴェスタの斎女であったとも言われる。
しかし一方でヴェスタはヴルカヌスの妻で、元々は一対となって神格化された火を象徴する存在に過ぎなかったとする説もある他、ヴェスタ信仰は都市成立以前には重要視されていなかったと唱える向きもある。
パラディオンの聖火は元々はパラスと呼ばれる両性具有神あるいは男根神を祭るものであったらしい。この神は後に家畜の女神パレースおよびパラティヌス丘の守護女神パラートゥア(両者はしばしば同一視される)としてヴェスタの従属神格となっている。このパラスの正体についてはギリシャの古い男根神パラスとする説やロバ(ヴェスタの聖獣はロバである)の姿をしたパレスチナの両性具有神パレスとする説等があるが真相は不明である。アーエネイス伝説の成立後はパラディオンの名はパラス・アテナの神像に由来するものとされている。
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