ブリヤート神話における最大の英雄神。英雄叙事詩「アバイ・ゲセル」の主人公。
西天の王、ハン・テュルマスの息子であるゲセルは父神がアター・オラーンとの決闘を取り決めた時、わずか3歳の幼児であった。父神が東天側から勝利宣言をされ屈辱を受けた時、ゲセルは揺りかごから這い出し、父の槍をアター・オラーンに突き刺して地上に投げつけた。その後自分の揺りかごに戻ったゲセルはまた静かに眠りについたと言う。
戦いの後、地上で腐乱したアター・オラーンの死骸に手を焼いた西天の神々は、ゲセルに地上の平定を命じる。ゲセルはカッコーに姿を変えた三人の姉と共に、自らは黒いワタリガラスの姿で地上に降臨し、人間の子に転生して様々な悪鬼を退治していくのである。
この部分の逸話は日本神話に見られる天孫降臨に非常に似ており(ニニギノミコトがアマテラスの孫であったように、ゲセルもまたマンザン・グルメの孫であった)これは同一の起源を持つ神話が日本とモンゴルの双方で独自に発展していった事を想像させる。
地上を平定したゲセルは、長子のオショル・ボグドを全ブリヤートのハン(王)として即位させた(このあたりも日本神話の天孫と天皇家との関係を彷彿とさせる)。地上が治まった事を見届けた神々はゲセルに天界に戻る様、度々呼びかけたが、ゲセルはこれを無視し、七日間に渡って宴を続けた。
更に一日眠った後、ゲセルは九日目になってようやく天界に戻ったが、そこでは一千のボルハンやテンゲリ達がこぞって、父神であるハン・テュルマスを責めたてていた所だった。
ゲセルは慌てて神々に許しを請い、元の幼児の身体に戻り、ボルハンの一員として神々に迎えられた、と伝えられる。
|